やはし農園では、2022年からスーパーフード『カラルー』の栽培実験を行っております。
1. スーパーフード『カラルー』との出会い
カラルーとの出会いは2021年初冬のころです
とある経営者や個人事業主の方々の集まる会合で『カラルー』に関する簡単なプレゼンをたまたま聞く機会がありました。
『カラルーは雑草ですから』と!
しかもその雑草を「パウダーにする」と!
※いったんパウダーのことは忘れて読み進めてください。
その言葉にまず、衝撃を受けました。
今でこそ雑草に関する知識や雑草との付き合い方、向き合い方、また、食べられる雑草についてなども、やはし農園内の雑草のことは多少わかるようになりましたが、営農を始めて2年目の当時は、
「なに言うてはるんやろー?」くらいの感覚でした。
でも、その方の話しぶりや熱い想いに触れ、「おもろいことになったらええなー、とりあえず作ってみるか!」ぐらいの軽い気持ちで、種をいただき、翌年の5月ごろから栽培を開始しました。
牛糞堆肥を施肥し、トラクターで耕耘、それなりの畝もたて、軟弱野菜(コマツナ、ホウレンソウ、ミズナ)のような栽培方法で種を蒔きました。
発芽は順調で、5日もあればほぼ出揃ったように覚えています。
少しずつ間引きをしながら、株間を整え、一か月ほど経過観察しました。
一般的な軟弱野菜だと、かなり大きくなるころですが、カラルーは15cmほどの背丈で、葉っぱの展開も弱く、色もかなり薄い感じで、見るからに貧相、貧弱、おまけに穂が付き始める始末。
「全然あかんやん!」
とても葉っぱを食べたいと思う気持ちにはなれず、栽培一年目はそのまま放置で終了。「チーン!」
2. 5年間、実際に育てて分かったこと
そんなこんなで、2年目突入
「1年目は畑への直播(じかまき)があかんかったかも」と反省し、育苗トレーを用いて育苗用培土に種まきをしました。
種は初めにいただいたものを使用しましたが、発芽はいたって順調。本葉が展開するころにはポットへ鉢上げまで行い、
雑草にしては手厚いおもてなしで苗まで育て上げました。
葉っぱの色も明らかに1年目よりは濃く感じ、背丈と横に伸びた葉っぱのバランスもよく、良い苗ができたと思います。
畑への定植時期までは、はっきりと覚えていませんが、種まきから1か月後ぐらいだったと思います。
定植時も「連作障害などあるはずもない」と思いながらも、念には念をと、昨年とは違う場所に定植しました。
もちろん牛糞堆肥を施肥、トラクターで耕耘、しっかり畝もたてました。
「今年は上手くいくなー」とかなり期待していましたが、畑への定植後はやはり生育がすこぶる鈍く、葉っぱの色もだんだんと薄くなり、明らかに生育不良の感じでした。
背丈は1mほどにはなったと思いますが、やはり穂が出てきてしまい、たぶんバッタの食害だと思いますが、葉っぱはボロボロになりました。
ここまでやってもあかん感じだと、さすがにちょっと凹みました。
2年目もそのまま放置ーで終了です。
ちょっと話がそれますが、僕は新規就農当初から4反(約4000㎡)もの面積をお借りしていましたので、1年目にカラルーを作付けした圃場は、2年目は他の野菜なども全く作付けしていませんでした。
特に様子を見ることもなく、ただ定期的に草刈りだけをしていました。
↑
実はここがかなり重要なポイントになってきます。
そして3年目
ついにあきらめて種まきすらしていません(笑)
僕はカラルー農家ではないので、「もうカラルーは・・・」ですが、他の野菜はちゃんと栽培します。
で、1年目にカラルーの作付けをした圃場で夏野菜(果菜類)の栽培をするために春先からせっせと畑の準備に励みます。
当時はまだ耕すことを普通にやっていましたので、堆肥もまいてトラクターで耕耘、そして定植と教科書通りに進めますが、ビニールマルチは使いませんので草の整理や管理はマメに行います。
そんな中、見たことのある小さな芽があちらこちらで見られるようになってきました。
カラルーの新芽でした!
いわゆる「こぼれ種」「落ち生え」というやつです。
栽培のメインは夏野菜ですので、果菜類の邪魔にならないようにカラルーの間引きを行います。
葉っぱも柔らかくて美味しそうな色艶で、5cmから10cmほどの草丈で間引くとベビーリーフのような感じで生でも食べられます。
もちろん青臭さはありますが、ペッと吐き出してしまうような苦々しさや渋さはありません。
さっと茹でると青臭さや味もほとんどなくなり、我が家ではみそ汁にぶち込むという農家飯が毎日の主食になりました(笑)
気候が進むにつれてぐんぐん大きくなり、梅雨時期にはもりもり生育し、靴のサイズを超える大きな葉っぱもたくさんありました。
※大きな葉っぱはゴワゴワした感じになりますので、生では筋が口に残りますが、刻んで炒め物にすると普通に食べれます。
ここで次の問題が発生しました。
ちょうど梅雨上げごろからバッタの食害が目立ち始めます。
靴のサイズを超える大きな葉っぱは、固い葉脈だけが残るレース状に、柔らかい葉っぱは、ほぼ食い尽くされてしまいました。
ここで、第1章の冒頭に出てきた「しかもその雑草をパウダーにする」という話につながります。
虫食いのある大きくゴワゴワした葉っぱは、当初よりパウダー状にする計画でしたので全く問題はありません。
食い尽くされてもカラルーは数で勝負できますので、まだまだきれいな葉っぱもたくさんあります。
虫食いがあってもきれいな緑色の葉っぱを定期的に収穫しては、コンテナに詰めて加古川にある就労継続支援B型事業所に運搬します。
※ 7. 農福連携との可能性 に繋がります。
季節が進みます。
カラルーも寒さには弱く、霜が降りる頃には茎もスカスカになって枯れてしまいますので、穂がしっかりと茶色くなったタイミングで種取りを行います。
※初めての自家採種
4年目へ
昨年初めて取った種を2年目と同じパターンで育苗しました。
※自家採種を繰り返すと、その土地の環境に適応し、栽培しやすく強い野菜になりやすいそうです。
ここについて、この場ではあまり多くを語りませんが、やはし農園では種取りも行っていますので実体験としてもそう言えると思っています。
カラルーの種は、他の野菜の種に比べて半分以下ぐらいの大きさしかありませんし、穂ごとごっそり採取しますので、種と穂にわけるのは至難の業です。
当初にいただいた種は黒い種だけでしたので、育苗トレーの枠内に丁寧に下ろせましたが、自家採種した穂付きの種は水稲用のトレーなどに蒔くしかありません。
もちろんドバっと落ちたところは密集して発芽してきますので、ポットに鉢上げするのがまぁまぁ面倒でした。
育苗はあくまでも「こぼれ種」「落ち生え」が発芽しなかったときの保険でしたが、その心配は全くなく、見事に勝手に生えてきてくれました。
4年目は、ベビーリーフサイズの葉っぱや、虫食いのほとんどない葉っぱを、葉物野菜として販売することも始めました。

昨年よりも大きく育ってくれたように思いますが、害虫による食害は普通にありました。
昨年と同様に虫食いがあってもきれいな緑色の葉っぱを定期的に収穫しては、コンテナに詰めて加古川にある就労継続支援B型事業所に運搬します。
※ 7. 農福連携との可能性 に繋がります。
また、穂がしっかりと茶色くなるタイミングで種取りも行いました。
5年目へ
4年目とほとんど同じ流れです。

6月20日の「こぼれ種」「落ち生え」カラルーの様子です。
見事としか言いようがない出来だと思います。
自然には絶対勝てないと強く思う瞬間ですねー。
そして、2026年。
2021年の初冬に僕にカラルーの話をしてくれた澁谷さん(株式会社イーファ)と共に、加古川にカラルー専用の圃場を借りて、本格的にカラルー栽培を開始しました。
澁谷さんとはこの5年間、月に一度のペースでお会いして生育状況や課題などを共有していました。
毎月のようにやはし農園にカラルーを見に来られるんですよ!
「この人は本気なんや!」と、しっかり飲み込まれてしまいました。(笑)
このように実際に5年間栽培してみて、いろいろ見えてきたものがあります。
- 播種時期
- 栽培期間
- 収穫
- 管理
- 年間何回くらい収穫できるか
- どんな土地なら向いているか
- 逆に難しいところ
栽培方法が確立してきた2026年というのが現在地です。
3. パウダー加工への挑戦
カラルーを育てることから、活かすことへ
野菜を育てることは大好きです。どんなに暑い日でも、畑に立つことを苦労だと思ったことはほとんどありません。
でも、育てた野菜を販売するとなると、話は別です。
5年間栽培を続ける中で、育て方や収穫のタイミングなど、栽培については少しずつ分かってきました。しかし、収穫したカラルーをどうやって多くの人に届けるのか。そこには、まだまだ課題があります。
そもそも農業では、規格外品やB品と呼ばれる野菜ができることは珍しくありません。
有機栽培であれば、多少の虫食いや形の不揃いは仕方がないと理解してくださる方もいます。それでも、実際に野菜を選ぶときには、虫食いが少なく、形の整ったものが選ばれるのが現実です。
マルシェなどの対面販売では、ひと言ふた言、言葉を交わすことで購入につながることもあります。しかし、すべての野菜をそうやって販売できるわけではありません。
食べられるのに、商品として届けることが難しい。
そんな野菜を、できる限り無駄にせず活かす方法はないだろうか。
その可能性の一つが、カラルーのパウダー加工でした。
パウダーにすることで、生鮮野菜としては販売しにくかった葉っぱにも活用の道が生まれます。また、収穫できる時期が限られるカラルーを、季節を越えて届けることもできるようになります。
もちろん、パウダーに加工すれば、すべての問題が解決するわけではありません。
大切なのは、パウダーにすること自体ではなく、パウダーになったカラルーを、どう活かしていくのか。
カラルーの可能性を広げる挑戦は、ここから始まります。
パウダー加工で見えてきた可能性
カラルーパウダーは、お菓子や乳製品との相性がよく、普段の家庭料理にも取り入れることができます。実際に商品化されたものもあり、その使い道は少しずつ広がっています。
一方で、販売する中で気づいたこともあります。「どんな料理にも使えます」という説明だけでは、なかなかその魅力が伝わらないのです。
使い道が幅広いからこそ、具体的にどう使えばいいのかを伝えることも大切だと感じています。
生鮮カラルーの販売と、虫食いの現実
カラルーを生鮮野菜として販売するうえで、やはり見た目は大切です。
これまでの栽培経験では、6月初旬ごろのベビーリーフサイズの葉っぱはとてもきれいで、お盆前ぐらいまでは比較的きれいな状態で収穫できます。
ところが、お盆を過ぎたころから虫食いが目立つようになり、葉っぱがボロボロになってしまうこともあります。
農薬を使わずに育てているとはいえ、虫食い跡があまりにも多いと、生鮮野菜としてはなかなか手に取ってもらえません。

この虫食いは毎年ほぼ同じ時期に起こります。
ところが、10月ごろになると、前年のこぼれ種から発芽したカラルーも育ってきます。
こうした自然発芽や種まきを組み合わせることで、年間3回ほど収穫することができます。
パウダー加工によって変わった収穫方法
これまでは、カラルーの葉っぱを一枚ずつ摘み取って収穫していました。
2026年から、パウダー加工用のカラルーは草丈50cmほどに育ったところで、地際から刈り取る方法を取り入れています。
この大きさなら葉っぱだけでなく茎も加工原料として利用できることが分かりました。
葉っぱを一枚ずつ摘み取るよりも収穫作業が楽になり、茎も利用することで収穫できる重量も増えます。
パウダー加工を支える農福連携
収穫したカラルーは、そのまま加工業者へ送るわけではありません。
現在は、加古川市の就労継続支援B型事業所に協力していただき、カラルーの洗浄や葉と茎の仕分け、葉の冷凍、茎を細かくする作業などをお願いしています。
パウダー加工に必要な準備を、福祉の現場で担っていただいています。
パウダー加工の現状とこれからの課題
カラルーのパウダー加工には、まだまだ課題があります。
現在は、一か所のB型事業所に加工前の作業をお願いしていますが、今後カラルーの栽培面積や収穫量が増えれば、今の体制だけでは対応が難しくなるかもしれません。
また、生鮮販売用とパウダー加工用で栽培管理を分けるべきかどうかも、これから考えていく必要があります。
パウダーへの加工は、専門の業者さんにお願いすることで実現できました。しかし、当然ながら加工には費用がかかります。
そして、商品として完成したからといって、必ず売れるわけではありません。
カラルーのパウダーを、誰に、どんな形で届けていくのか。加工する技術だけでなく、使ってもらえる場所や販路をつくることが、これからの大きな課題です。
カラルーの居場所づくり
パウダー加工によって、カラルーの可能性は確実に広がりました。
しかし、パウダーにすることがゴールではありません。
カラルーを知ってもらい、実際に使ってもらい、そして必要としてもらえる場所を増やしていくこと。
その一つひとつの積み重ねが、カラルーの居場所づくりにつながっていくのだと思います。
4. カラルーの現状
ここまでお読みいただきました皆さま、
『カラルーって凄いやん!』
『そんなん絶対作った方がええやん!』
きっとそう思っていただいていると思います。(笑)
ところが、現実はそんなに簡単ではありません。
現在、カラルーパウダーを継続的に購入してくださるお店や企業は、まだありません。
商品化されたものもあり、少しずつ使い道は広がっていますが、安定した販路を確保するところまでは至っていないのが現状です。
少しずつ生まれているカラルーの居場所
一方で、カラルーを知ってもらい、実際に使ってもらう取り組みは少しずつ始まっています。
神戸市北区の再度公園で開催されている「ふたたびマルシェ」では、やはし農園による生鮮カラルーの販売をはじめ、さまざまな形でカラルーが活用されています。

バルバッコア・コーボー118(Barbacoa Kobo 118)さんは、生鮮カラルーやカラルーパウダーを使ったグリーンソースを提供。マルシェを主催するRe-encounterさんは、カラルーパウダーを練り込んだ人気の手作りスコーンを販売してくださっています。


さらに、親和大学の地域共創科目では、大学から依頼を受けたRe-encounterさんが講師を務めています。その授業の一環として、学生さんたちの一グループが、カラルーを取り入れた「カラルーSHIN学生食堂」に取り組んでくれています。


また、神戸市中央区のヨガスタジオ「acora(アコラ)」では、植物性おやつブランド「lilly’s(リリーズ)」のカラルーを使ったエナジーボールが、不定期で販売・提供されています。

そして、神戸市西区押部谷町の「さとのわ養蜂研究所」では、カラルーのお話し会も開催させていただきました。


まだまだ小さな取り組みですが、こうした一つひとつの出会いやつながりが、カラルーを広めるきっかけになっています。
つながりを継続できる仕組みへ
カラルーを通じて、少しずつ人とのつながりが生まれてきました。
しかし、こうした取り組みを一度きりのものにせず、継続していくためには、事業として利益を生み出すことも必要になります。
僕たち農家がカラルーを育て、加工業者さんが製品に仕上げてくださる。
そして、料理に携わる人たちが新しい使い方を生み出し、時には斬新なアイデアでお客さまに届けてくださる。
それぞれの立場で関わる人たちが、無理なく続けていける仕組みをつくることが、これからの課題だと考えています。
現在はカラルーパウダーを中心に取り組んでいますが、今後はOEM(他社への製造委託)による商品開発や、プロテイン・美容関連商品への活用、冷凍ペーストなど、さまざまな可能性を考えています。
また、カラルーを使った料理を提供する飲食店が増え、そのお店にカラルーを目当てにお客さまが訪れるようになれば、飲食店にとっても新たな魅力になるのではないでしょうか。
まだまだ構想の段階ですが、カラルーを生産して販売するだけでなく、加工や飲食など、さまざまな形で価値を生み出せる事業に育てていきたいと考えています。
カラルー、その先へ
カラルーがこれからどこまで広がっていくのか、正直なところ、まだ僕自身にも分かりません。(笑)
それでも、こうして少しずつつながってきたご縁や、新しい商品、料理との出会いには、大きな可能性を感じています。
そのひとつひとつを大切にしながら、カラルーに関わるみなさんが、必要とされる喜びを感じ、さらには少しでも利益を得られる。そんな仕組みを目指して、これからも挑戦を続けていきたいと思います。
※カラルーの事業について
カラルーの商品開発や販路づくりについては、株式会社イーファと共に取り組んでいます。
商品や事業に関する詳しい情報は、株式会社イーファのホームページでもご紹介しています。
5. カラルーと耕作放棄地
僕が新規就農で最初に借りた農地は、3〜5mほどの雑木が生い茂り、先が見えないほどの林になっていました。
当時、農業を始めたばかりの僕が持っていた道具といえば、エンジン式の刈払機(草刈り機)とのこぎりくらい。
さすがに自分一人ではどうにもならず、土木作業のできる知り合いにお願いして、開墾を手伝ってもらいました。
ダンプを借りてユンボを運び、まずは畑として使える状態にするところからのスタートでした。
開墾に着手したのは9月でした。
重機を何日も借り続けるわけにはいきませんし、知り合いに手伝ってもらうといっても、当然日当も必要です。
それに、伐採した雑木や刈草の処分にも、費用や手間がかかります。
当時は電気設備もなかったので、雑木は毎日のようにのこぎりで切っていました。
ところが、切っても切っても終わりが見えないほどの量です。
そこで、ホームセンターでバッテリー式ののこぎりをレンタルしてみました。
しかし、畑には充電できる場所がありません。
バッテリーが切れたら、あっという間に作業終了です。(笑)
細かく切った木は、冬場に暖を取るための備蓄燃料として保管。
ちなみに、当時伐採した木は今でも残っています。(笑)
そんな作業を続けながら、重機を手配したり、人に来てもらったりして少しずつ開墾を進め、翌年3月、ようやく最初の作付けを始めることができました。
約半年かけて、ようやく野菜づくりのスタートラインに立ったわけです。(汗)
耕作放棄地といっても、その状態はさまざまです。
草が生い茂っている程度なら比較的簡単に畑に戻せることもありますが、雑木が林のようになってしまうと、野菜を育てる以前にかなりの時間と労力が必要になります。
カラルーは雑草のような生命力を持つ植物ですが、だからといって、どんな耕作放棄地でも簡単に育つわけではありません。
第2章でも書きましたが、僕自身、開墾したばかりの畑でカラルーを育てようとして、見事に失敗しています。(笑)
牛糞堆肥を入れ、耕して畝も立てましたが、思うようには育ちませんでした。
そして2026年、加古川で新たに借りたカラルー専用の圃場も、もともとは耕作放棄地でした。
こちらでもユンボを使って開墾しましたが、以前のような林ではなく、雑木が生えていたのは、圃場の外周の一部だけでした。
開墾後の土の状態や雨が降ったあとの様子を確認し、これまでの経験から、ここならカラルーを育てられると判断しました。
加古川の圃場では、開墾の際に草と一緒に表面の土をユンボでかき集め、一時的に山にしていました。
その土の山を崩して平らにした場所では、カラルーが比較的よく育ちました。特に表土が集まっていた円形の部分では、明らかに生育が良くなりました。
また、僕が自家採種してきた種と、澁谷さんが持っていた種の両方をまいてみたところ、全体的には僕の種の方がしっかり育ちました。
ただし、表土が集まっていた場所では、澁谷さんの種でも大きく育っています。
今回は肥料もしっかり入れているので、何が一番の理由なのかは分かりませんが、同じ圃場でも土の状態や種によって育ち方に違いがあることを、改めて実感しました。
カラルーを育てることで、耕作放棄地の解消へ
僕は、耕作放棄地を解消するためにカラルーを育てるのではなく、カラルーを育てることで、結果として耕作放棄地の解消につながればと考えています。
農業を始める以上、どんな作物であっても、土づくりや栽培環境を整えることは必要です。カラルーだからといって、その手間がなくなるわけではありません。
そして、新しく農業を始める人にとって、農地の確保は大きな壁の一つです。
本来なら、できるだけ条件の良い農地でスタートしてほしい。でも現実には、そうした農地を簡単に借りられるとは限りません。
僕自身、林のようになった土地を半年かけて開墾しましたが、誰もが同じことをできるとは思っていません。
そこで僕たちが考えているのが、カラルーを新規就農者の作付け品目の一つにしてもらうことです。
カラルーだけで営農していくのではなく、ほかの野菜と組み合わせながら、収入を得るための選択肢を一つ増やす。
栽培方法については、これまでの経験をもとに伝えることができます。
ただし、育てたカラルーを買い取ってもらえる仕組みがなければ、新しく栽培を始める人に安心して勧めることはできません。
だからこそ、僕たち自身がカラルーの販路をつくり、継続して買い取れる仕組みを整えていく必要があると考えています。
カラルーだけで、耕作放棄地の問題が解決するとは思っていません。
それでも、カラルーを育てることが農業を続けるための収入の一つになり、その結果として、使われなくなった農地が再び活用される。
そんな小さな積み重ねが、耕作放棄地の解消につながっていけばと思っています。
6. 新規就農支援としてのカラルー
僕は農家ではない家庭に生まれ、農業とは無縁のところから新規就農しました。
農地を探すところから始まり、ようやく借りられた土地は、第5章でも書いたように、雑木が生い茂る林のような状態でした。
農地を整え、野菜を育て、そして自分で販路をつくる。
農業を始めるということは、野菜の育て方を覚えるだけではないんだと、身をもって経験しました。
そんな経験をしてきた僕が、今、研修生を受け入れる立場になって思うことがあります。
『自分がした苦労は、少なくともうちの研修生にはさせたくない。』
農地と販路をつなぐ
現在、やはし農園では新規就農を目指す研修生を受け入れています。
そして、研修を終えた人が農業を始められるように、近隣の農地を確保し、草刈りなどの管理も行っています。
中には、すぐに作付けできる状態の農地もあります。
こうした農地は、地域の方から声をかけていただいたものもあれば、僕自身がお願いしてお借りしたものもあります。
その際には、間に入ってつないでくださった方もいらっしゃいます。
2026年現在、農業を始めて6年ほどですが、地域のみなさんとのご縁や信用の積み重ねが、少しずつ形になってきたのかなと感じています。
また、農地だけでなく、これまで僕自身が開拓してきた販路を紹介することもできます。
農業を始めたばかりの人が、農地探しや販路づくりに苦労する時間を少しでも減らし、野菜づくりに向き合える環境をつくっていきたいと思っています。
自分一人だけが農業を続けていければ、それでいいとは思っていません。
同じ想いを持ち、共感し合える人たちと一緒に、農業を続けていきたいと思っています。
それぞれが自分のできることを持ち寄り、時には助け合いながら、自分らしい形で農業を続けていける。
そんな仲間やつながりを、少しずつ増やしていきたいと考えています。
新規就農者の選択肢としてのカラルー
農業を始めたいと思っていても、何を育てたらいいのか、どんな作物なら収入につながるのか、悩む人もいると思います。
そんな人たちに、作付け品目の一つとしてカラルーを提案できないかと考えています。
現状では、カラルー栽培だけで営農していくのは難しいと思いますし、誰にでも栽培を勧めたいわけではありません。
それぞれが目指す農業の形や、土地の条件に合わせて、選択肢の一つに加えてもらえたらと思っています。
でも、いつかカラルー栽培だけで、しっかりと生計を立てられる農家さんが生まれてくれたら、こんなに嬉しいことはありません。(笑)
暮らしの中にも、カラルーを
農業に関わることは、必ずしも農家になることだけではありません。
家庭菜園や市民農園で野菜を育てている人も、たくさんいらっしゃいます。
基本的には自家消費が目的で、たくさん収穫できたときには、ご近所さんや知り合いにおすそ分けする。
そんな農業の楽しみ方に、もう一つ選択肢があってもいいのではないでしょうか。
例えば、自分で育てたカラルーを家族で食べて、余った分を買い取ってもらえれば、少しでもお金になる。
まだまだ僕の願望ですが、そんな仕組みができれば、農業がもっと身近なものになるのではないかと思っています。
一家に一台、ならぬ「一家にカラルー」。(笑)
そんな未来もちょっと面白いと思いませんか?
7. 農福連携との可能性
僕は以前、神戸市西区の就労継続支援B型事業所の利用者さんたちと、半年ほど一緒に農作業をしていたことがあります。
水やりや草抜き、種まきや植え付け、そして収穫まで、作業はさまざまです。
収穫した野菜は、洗って重さを量り、袋詰めをして、納品や販売まで行っていました。
一人ひとり、できることや得意なことは違います。中には耕運機を扱える方もいらっしゃいました。
力仕事などは僕たち農業の専門家や事業所のスタッフさんが担当し、それぞれができる作業を分担しながら、一緒に畑に立っていました。
そんな経験もあって、僕は農福連携を単なる作業の提供だけで終わらせたくないと思っています。
就労継続支援B型事業所の工賃は、決して高いとは言えません。
だからこそ、カラルーに関わる仕事が継続的に生まれ、その仕事による収益が利用者さんの工賃にも少しでも反映される。
そんな仕組みにつなげていきたいと考えています。
継続できる仕事をつくるために
現在、カラルーの収穫後の作業は、加古川市にある就労継続支援B型事業所「想」さんにお世話になっています。
ただ、想さんにも普段から取り組まれているお仕事がありますので、カラルーの作業は収穫時期に合わせたスポット的なものになっています。
僕は、ここにも大きな課題があると感じています。
事業所さんにとっても、一時的な仕事だけではなく、継続的に取り組める仕事がある方がいいのではないかと思うからです。
カラルーの生産や加工、販売が安定することで、事業所さんにも継続して仕事をお願いできるようになる。
そして、その仕事が利用者さんの工賃にも少しずつ反映されていく。
そんな形をつくっていきたいと考えています。
農業と福祉、お互いを理解すること
農業と福祉では、それぞれに専門性があり、大切にしていることも違います。
一緒に農作業をしていた当時の僕たちは、農業についてはプロとしての自覚がありましたが、福祉についてはまだまだ知らないことばかりでした。
その後も福祉の現場に関わりながら経験を重ねてきましたが、今でも学ばなければならないことはたくさんあります。
だからこそ、お互いの立場を理解し、学び合いながら、一緒に取り組んでいくことが大切なんだと思っています。
振り返ってみると、当時の僕は、農業のすべてに成果や結果を求めていたように思います。
認定新規就農者として、何とか農業を成り立たせなければという思いも強かったのかもしれません。(笑)
今なら、当時よりも少し柔軟に、一人ひとりに合わせた関わり方ができるのではないかと思っています。
もちろん、仕事である以上、成果や利益も大切です。
でも、その結果だけを求めるのではなく、それぞれの得意なことや、できることを活かしながら、一緒に仕事をつくっていきたいと考えています。
食べることから広がる可能性
僕は農福連携について、仕事をつくることだけでなく、食べることにも可能性を感じています。
食べることは、人間の基本的な欲求の一つです。
だからこそ、障がいのある方にも、毎日の食事で少しでも栄養のあるものを摂ってもらいたいと思っています。
僕自身、福祉の現場に身を置きながら栄養学を学んでいるのも、日々の食生活が健康に大きく関わっていると感じているからです。
もちろん、カラルーを食べることで特定の病気が予防できると考えているわけではありません。
それでも、普段の食事の中にカラルーを取り入れることで、野菜を食べる選択肢が一つ増える。
そんな形でも、カラルーが役に立てたら嬉しいと思っています。
カラルーを通じて、続けられる農福連携へ
カラルーを通じて、誰かの仕事が生まれ、少しでも工賃につながる。そして、誰かの毎日の食事にも役立つ。
そんな農業と福祉のつながりを、これから少しずつ広げていきたいと思っています。
8. まだまだ、これから。
ここまでカラルーの可能性について、いろいろと書いてきました。
でも、実際にはまだまだ課題がたくさんあります。
カラルーの知名度や販路の確保、生葉の流通、加工にかかる費用、粉末商品の販売、そして安定した需要をどうつくっていくか。
さらに、生産者を増やしていくのであれば、収穫したカラルーの買い取り体制や農地の確保についても考えていかなければなりません。
栽培方法がある程度確立できたからといって、それだけで事業として成り立つわけではありません。
むしろ、ここからが本当のスタートなのかもしれません。
カラルーを使って、僕がやってみたいこと
僕は、カラルーをただ栽培して販売するだけの野菜にはしたくありません。
耕作放棄地をもう一度畑に戻すこと。
これから農業を始めたい人に、カラルーという一つの選択肢を届けること。
小さな農業でも、無理なく続けていける仕組みをつくること。
農業と福祉が、お互いに支え合える関係をつくること。
そして、農業をする人だけではなく、食べる人や地域の人、子どもたちにも、カラルーを通じて農業を身近に感じてもらうこと。
どれも簡単に実現できることではありません。
でも、これまでカラルーに関わってくださった方々とのつながりを大切にしながら、一つずつ形にしていきたいと思っています。
カラルーが育つ場所だけではなく、使われる場所、食べられる場所、そして必要とされる場所を増やしていく。
僕がつくりたいのは、そんな「カラルーの居場所」です。
